販売促進の為に巻かれた緑色の紙は、それまでは単に帯と言っていたようだ。ところが、雑誌『面白半分』が「日本腰巻文学大賞」を創設した時から、業界用語の〝腰巻〟が一般に流れ込んだ。本の下半身に巻かれるから〝腰巻〟だと。
その第一回目の大賞作品が山口瞳の「酒呑みの自己弁護」である。
栄えある受賞者は新潮社の編集者。その記念すべき上製本は持っていないし、写真では文字が読めないが、腰巻の文面は文庫本でも読むことができる。
私の文庫本「酒呑みの自己弁護」は仕立てなおしてある。
出版社は文庫本化する時には腰巻までは再現しないので、かの腰巻はしていない。したがって仕立て直す時も「愛いやつじゃ」と腰巻を剥ぎ取り「殿、ご無体な」という展開にはならない。新しい衣装をまとわせ上製本として大切に保存している。
その文庫本の解説で青木雨彦氏が受賞作を紹介している。
「酒呑みの自己弁護」の腰巻
月曜 一日
会社へ行って
火曜日 夜更けに
九連宝燈
水曜 一晩
小説書いて
木曜 三時の
四間飛車
金曜 日暮れに
庭木をいじり
土曜日 たそがれ
馬券の吹雪
日曜 朝から
愛妻家
月月火水木金々
酒を呑みます
サケなくて
何で己が 桜かな