言葉

2-792) やぶさかでない

〝やぶさかでない〟という言葉がある。
〝やぶさか〟を無いと否定しているのだから、存在するのだろうが〝やぶさか〟という言葉は全く聞かない。
「やぶさかである」と言うと、険しい道の話で、藪や坂に聞こえてしまう。

しかし、やぶさかは〝吝か〟と書き、吝嗇(りんしょく)という熟語もあるように、物おしみをする、しわい、けちといった人格否定的な意味で存在している。
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その否定的なニュアンスを「~でない」と否定しているわけだから、肯定的な意味になり、物おしみしない、快くするという意味になる。 つまり「協力するに吝かでない」 と言えば“協力をおしまない=快く協力する”ということになる。

しかし、日常会話ではほとんど使わない。
「お茶を入れてくれ」「はい、やぶさかではありません」「やぶさかの茶?藪北茶は無いのか」
「ハイキングに行きませんか」「やぶさかではない」「道は平坦ですよ」「?」

注文の度に一々「喜んで」という小うるさい居酒屋があることを思い出した。「ビール2本」「やぶさかではありません」とは言わないなー。
支払いで揉めても「やぶさか」とは言われない。

ことほど左様に、日常生活ではほとんど死語。もっぱら政治家用語のようになっている。
協力をおしまない=積極的に協力する気があるなら、素直に「喜んで協力する」と言えばよいのに、わざわざ「協力するに吝かではない」と答弁する。

その心は、素直な賛意ではないことを込めているのだと思う。自ら口火を切った決意の表明なら「協力するに吝かではない」などと言わない。
指摘されたり追及された後の答弁になると、素直に「喜んで協力する」と口に出来なくて、拒否しているかのように聞こえる「協力するに吝かではない」という文言を選んでしまうのだろう。

渋面の政治家が「協力するに吝かではない」と答弁するのを聞くたびに、〝嫌々だけど協力する〟という意味だと誤解する人が増えてしまうわぬかと心配している。
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by ikuohasegawa | 2012-04-20 05:00 | 言葉 | Comments(0)

十や十五連休なんて目ではない。三百六十五連休が始まった私。


by ikuohasegawa