言葉

2-541) 流れに棹さす

身内も政敵も与党も野党も世論も早期退陣の流れができているのに、当の御本人はその流れに抗して延命を画策しているようだ。
「流れに棹さして居座っている菅総理」と言いたくなるが、正しい用法でない。

この「流れに棹さす」と「役不足」「気が置けない」は三大誤用語とでもいうべき存在だそうだが「流れに棹さす」は、夏目漱石の『草枕』の書き出しで知られている。

「山路を登りながら、かう考へた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい」という部分。これを一読すると、「棹をさして流れに逆らっても流される」と解しても良いように思える。しかし、正しくは「感情のながれに(感情にまかせて)進んでいく」という意味なのだ。

『棹さす』のベクトルの向きは
進行方向→ではなく

進行方向→なのである。

しかし、本来の意味とは逆に、流れのままに動く舟を、とどめるために流れに逆らって棹をさす、すなわち時流や大勢・流行に逆らう意と誤解して「時代の流れに棹さして世間から取り残される」と使われることもあるという。冒頭の「流れに棹さして居座っている菅総理」というのと同じ誤りだ。
文化庁の「国語に関する世論調査」で、「その発言は流れに竿さすものだ」の一文を例示し、どの意味で使っているか尋ねたところ、
1)傾向に逆らって、勢いを失わせる行為をすること、
2)傾向に乗って、勢いを増す行為をすること、
3)分からない、
の回答例のうち、1)とした人が6割以上を占め、本来の意味の2)を挙げた人は2割にも満たなかったという。
  
ご存知、浪曲天保水滸伝の一節。
「利根の川風袂に入れて 
月に棹さす高瀬舟」
2-541) 流れに棹さす_d0092767_1018361.jpg

せっかくなのでもう少し続ける
「ひとめ関の戸叩くは川の水に
 せかるる杭などに
 恋の八月大利根月夜
 佐原囃子の音も冴え渡り
 葦の葉末に露おく頃は
 飛ぶや、蛍のそこかしこ
 潮来あやめのなつかしさ」

ここにも「掉さす」とあるが、ゆったりとした利根川の流れに乗って竿を操る風情が感じられる。流れに抗して川上へ必死に船を進めているわけではない。
やはり、「棹さす」というのは「ながれにまかせて進んでいく」ことだとよく分かる。

流れに竿さすの用例は、草枕より浪曲天保水滸伝のほうが分かりやすい。
Commented by アルチュハイマー at 2011-06-28 14:17 x
そうそう、これは誤用されやすい有名な例ですよね。私が、もっと誤用されていると思うのは、「情けは人のためならず」です。もっとも、最近の若者たちは、こんな言葉自体知らないんでしょうね。
 天保水滸伝の節については、以前にも書きましたが、「杭などに」の箇所は、名人二代目勝太郎は「水鶏鳥(クイナドリ)」とうなっております。杭などにでは、どうも意味が通じないように思えるんですが、これも誤用の一つですかね・・・。
 
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by ikuohasegawa | 2011-06-28 06:27 | 言葉 | Comments(1)

十や十五連休なんて目ではない。三百六十五連休が始まった私。


by ikuohasegawa