左腰に刀を挿している武士同士がすれ違うとき、鞘が触れると斬りあいになりかねない。そこで暗黙のうちに左側を歩くようになったらしい。同時に、万が一、斬り掛かってきた時に、すぐさま剣を抜き攻撃に移ることができるのも、この立ち位置(左側)だから道理に適っている。
対向者とどうすれ違うかというのは、確かに時として大きな問題である。
早朝ウオーキング。
車道の向こう側の歩道にもウオーキングの人がいる。
少し汗ばむだけのいつもの静かな朝。
向こう側で、突如、乱れた動きが起きた。
殴られ殴り返している。「喧嘩?」
「夏休みだから、おふざけの喧嘩ごっこだろう」
違う。大人だ。
大柄の少し若いほうが小柄な高齢者を殴り倒した。罵声を浴びせ踵を返してウオーキングを続けていく。
「本気の喧嘩だ!」
起き上がって後姿をにらんではいたがそれまで。
武士なら出会いがしらの斬りあいであった。
歩道の色違いの境い目を歩いて来た二人が、どうすれ違うかは確かに厄介なことである。
どちらか一方が普通人なら問題は起きない。除けるから。二人とも非普通人だと、こうなってしまう。
「真直ぐ行くのは俺だ俺だ俺だ」「俺だ俺だ俺だ俺だー」タカが二人ではどうしようもない。
ウオーキングを開始したころは、知らない人と残れすれ違い挨拶の程度、そしてすれ違い方が頭の中をグルグルしていた。
私は、指定されていない限り、原則的に歩道の右側を歩くようにしていますが、向こうからやってくる左側を歩く人とよく鉢合わせます。男性の場合は大抵視線が合ったところで阿吽の呼吸でお互いがかわすのですが、女性の場合はそうはいきません。相手は、とぼけて事前に目を落として直進してきますので、仕方なくこちらがよけることになります。まあ、ごく一部の女性ですけれどね…。