そして翡翠色に焼きあがった銀杏を赤絵の小鉢からつまみ上げる時‘秋だ’という思いが深くなる。
私の暮らす団地の外周はイチョウ並木が続いている。毎年この時期になると葉は色づき始め銀杏がたわわに実る。と、間もなく車道歩道を問わず実を散らす。
細い並木に実る銀杏は粒が小さい。果肉を除くと小指の爪くらいのサイズでしかないので採取し持ち帰る人は稀である。殆んどがその場で潰れ辺りを汚す。加えて独特の臭いを振りまくことになる。昨夜は強風だったので今朝は一面銀杏だろう。
私は銀杏を好んで食べるから、通っても 「臭う」 と思う程度だが、好まぬ人がいかなる感想を抱くのかは気になるところである。とりわけ人間の1億倍の嗅覚を持つといわれる犬。この銀杏ロードを散歩する時、犬君は如何なる感想をいだくのかが気になる。
犬はそこを通っても、さ程じたばたする様子はない。しり込みをする風でもない。君は1億倍 においを感じるのではないのか。思いっきり臭いんじゃないのかい。あの臭いを1億倍嗅いだらたまったものではない。ひきつるだけでは済まない。悶絶しそうなものだけどなー。
ところで、この「1億倍」はいったいどんな基準によるものなのだろう。
この『1億倍』というのは、純粋酢酸を少しずつ薄めて1億倍に薄めても嗅ぎ分けられることから出た数値です。1億倍は、『酸臭』、つまり、酢酸系の臭いについてのもの。人間を含めた哺乳類の汗や涙などに含まれる酸に、特に強い嗅覚を発揮する。
更に、ニオイにも得手・不得手があり、実験によると1億倍の「酸臭」のほか、吉草根(植物系漢方薬)の臭いは170万倍、腐敗バター臭は80万倍、スミレの花臭は3000倍、ニンニク臭は2000倍という結果が出た。
どうやら、人の1億倍臭く感じるという事では無いようだから一安心である。
一億分の一に薄めても嗅ぎだす嗅覚ということだった。
それでも犬を飼う方に教えを請いたい。潰れた銀杏ロードを散歩する時の犬君の感想や如何に。